最高裁判所第二小法廷 昭和46年(オ)115号 判決 1971年11月19日
主文
理由
上告代理人畠山国重、同鍵尾丞治の上告理由第一点ないし第三点および第四点の四について。
所論の点に関する原判決(その引用する第一審判決を含む。)の判断は、すべて正当として是認することができ、原判決が引用する当裁判所の判決(最高裁判所昭和四三年(オ)第七七八号同四五年六月一八日第一小法廷判決、同昭和四二年(オ)第九〇〇号同四五年八月二〇日第一小法廷判決)の見解を変更すべきものとは認められない。論旨は、独自の見解に基づいて原判決を非難するものであつて、採用のかぎりでない。
同第四点の一ないし三について。
債権が差し押えられた場合において、第三債務者が債務者に対し反対債権を有していたときは、その債権が差押後に取得されたものでないかぎり、右債権および被差押債権の弁済期の前後を問わず、両者が相殺適状に達しさえすれば、第三債務者は、差押後においても、右反対債権を自働債権として、被差押債権と相殺することができることは、当裁判所の判例とするところであり(最高裁判所昭和三九年(オ)第一五五号、同四五年六月二四日大法廷判決、民集二四巻六号五八七頁)、このことは、債権の仮差押がされた場合においても異ならない。
ところで、これを本件についてみるに、原判決によれば、上告人の申請により、訴外昭和合金株式会社(以下、訴外会社という。)の被上告人に対する本件預託金返還債権について仮差押がされたが、被上告人の訴外会社に対する反対債権は、被上告人が右仮差押より前に訴外会社に金員を貸し付けて取得したもので、その弁済期はおそくとも昭和四一年九月三〇日には到来することになるのであり、一方、右仮差押を受けた債権の弁済期は同年同月二二日到来し、被上告人は、相殺適状の生じたのち、訴外会社に対し同年一〇月八日到達した書面をもつて原判示の相殺の意思表示をしたのであるから、前述したところにより、右相殺は、相殺適状が生じたときに遡つてその効力を生じ、本件仮差押にかかる訴外会社の債権は、右相殺により全部消滅に帰したものといわなければならない。そうすると、上告人は、その主張する債権差押および転付命令によつて右債権を取得するに由なく、原審が、上告人の本訴請求を排斥した判断は、正当である。原判決に所論の違法はなく、論旨は、採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官色川幸太郎の反対意見があるほか、裁判官全員一致意見により、主文のとおり判決する。
裁判官色川幸太郎の、上告理由第四点の一ないし三についての反対意見は、つぎのとおりである。
私は、差押と相殺の効力に関する多数意見の見解に反対である。要するに、債権が差し押えられた場合において、差押当時、被差押債権および第三債務者の債務者に対する反対債権がすでに相殺適状にあるときはもとより、反対債権が差押当時いまだ弁済期に達していない場合でも、その弁済期が、被差押債権である受働債権の弁済期より先に到来するものであるときは、第三債務者は、相殺をもつて差押債権者に対抗しうるが、これに反し、反対債権の弁済期が被差押債権の弁済期よりのちに到来する場合には、相殺をもつて差押債権者に対抗することができないと解すべきものなのであるが、その理由は、最高裁判所昭和三九年(オ)第一五五号同四五年六月二四日大法廷判決(民集二四巻六号五八七頁)における私の意見と同一であるから、それを引用する。そして、右に述べたことは、もとより、債権の仮差押がされた場合においても同様である。
これを本件についてみるに、原判決によれば、仮差押を受けた本件預託金返還債権の弁済期は、昭和四一年九月二二日到来したのであるが、一方、原審が、反対債権の弁済期がいつであつたかを確定することなく、おそくとも同年同月三〇日には到来することになると判示したのみで、被上告人は、その相殺をもつて上告人に対抗することができるとしたのは、仮差押と相殺の関係についての法令の解釈を誤り、ひいて審理不尽の違法があるといわなければならない。よつて、論旨は理由があり、原判決は、破棄を免れず、右の点についてさらに審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すべきである。
(裁判長裁判官 村上朝一 裁判官 色川幸太郎 裁判官 岡原昌男 裁判官 小川信雄)